東京高等裁判所 昭和52年(ラ)714号 決定 1977年10月26日
抗告人 富国企業株式会社
右代表者代表取締役 金子雅昭
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一 抗告人は、前文記載の競落許可決定を取消すとの裁判を求めたが、その理由は、別紙抗告理由書写記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 抗告人が抗告理由として主張する事実が、そのとおり存在したとしても、何ら抵当権の実行を妨げるものではないから、主張自体理由がない。
すなわち
イ 別紙抗告理由書写記載の一ないし三の主張は、前所有者が抗告人に物件一、二の土地を売り渡すとき、本件抵当権については前所有者が抵当債務を弁済して抵当権の抹消登記手続をすることを約束したというのであるが、右弁済がなく、抵当権が消滅していない以上、右約束があったことは本件競落許可決定を取消すべき理由とはならない。
ロ 次に抗告人は、松堂朝永に対し、本件土地を賃貸していると主張する(同抗告理由書写記載の四)。
しかし、右賃貸借契約は、抵当権設定契約(締結は昭和四八年三月二三日、同登記は同年同月二六日受付)後の昭和五〇年一月二六日に締結され、しかも短期賃貸借ではなく期間二〇年の契約であるとの主張である(本件競売事件記録八七丁の土地賃貸借契約書によってもそのとおりの事実が認められる)から右賃借権は、本件抵当権に対抗できず、主張自体からして、本件競落許可決定の取消理由とはならない。
2 本件競売事件記録によれば、物件一の鑑定評価額は八六六万円余、物件二のそれは三一万円余(合計八九七万円余)であり、競売申立債権額は元本六五三万円、損害金等約一四〇万円、手続費用三六万円(合計約八三三万円)であり、物件一と二の一括競買価額が一、一四〇万円であるので、過剰競売になるから、一般的には一括競売が許されない場合にあたる(民事訴訟法六七五条)ことが認められる。
しかし、同記録によれば、物件二は、僅か三一平方米の土地で、物件一の土地(三二七平方米)と私道を距てて至近距離にあり、勾配約二分の一の急傾斜地で宅地化には単独使用不可能な未利用地であり、物件一の土地と共に車庫、物置等の敷地として利用するほかない土地であること、及び昭和五二年四月八日の競売期日には最低競売価額を鑑定評価額の八九七万八、〇〇〇円と定めて公告したが競買申出者がなく、同年七月一日の新競売期日において最低競売価額を八〇八万円に低減したが、これまた競買申出者がなく、同年九月二日の新競売期日においては最低競売価額を七二七万円に低減して公告し期日を開いたことが認められる。認定の各事実に照らすと、物件一と二の土地を一括競売し同一人に競落させる必要があったもので、例外的に同法六七五条の適用はないものと解するのが相当である。従って、これを理由として本件競落許可決定を取消すことはできない。
3 本件記録を精査するも、他に右決定には取消すべき違法な瑕疵を発見できない。
4 よって本件抗告は、理由がないから、非訟事件手続法二五条、民事訴訟法四一四条、三八四条一項に則り、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 園田治 木村輝武)
<以下省略>